シンガポールビエンナーレ「An Atlas of Mirrors(鏡の地図)」感想と考察
3年に1度の現代アートフェスティバル、シンガポール・ビエンナーレにやっと行けた。最高すぎた。久しぶりに感じた心の震えの余韻を今なお引きずっている。
シンガポール・ビエンナーレ2016
「シンガポール・ビエンナーレ」は、アジア諸国を中心とした63のアーティスト及びアーティスト集団による作品が展示される国際的な現代美術の祭典。3年に1回開催されており、5回目となる今回のテーマは「An Atlas of Mirrors(鏡の地図)」。空間、時間、記憶、自然、境界、作因、アイデンティティー、転置、不在といった9つのサブテーマに基づいて展示されている。会場はシンガポールアートミュージアム(SAM)と、SAM at 8Qをメイン会場とした7カ所。
開催期間は2016は2016年10月27日〜2017年2月26日。
今年から新たにベネッセホールディングス(ベネッセ)とSAMが主催するアジア版ベネッセ賞が創設され、タイの女性アーティスト、パナパン・ヨドマニー氏の「Aftaremath」が受賞する運びとなった。
近くで見るとすごい繊細で綺麗なの。これ良かったな〜
好きだった作品
Karagatan ( The Breadth of Oceans)/ GREGORY HALILI / The Philippines
壁に小さくてきらきらした小さな貝たちが展示されてるなと思ったら
全部違った目だった
美しく輝く真珠の貝に描かれているのは、フィリピンの漁村に住む、海に運命を縛られている人たちの目。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」というニーチェの言葉が頭をよぎった。
Noah's Garden Ⅱ / DENG GUOYUAN / CHINA
万華鏡の中に入るインスタレーション。きらきらと輝いた世界がめちゃくちゃに綺麗で、夢の中にいるかのような現実味のなさ。綺麗だったんだけど、360度鏡に囲まれているのに鏡が動くせいで自分を見失ってしまうという不思議な空間。長くいると自己を喪失してしまいそうでぞっとする感覚があって、悪夢に近いと思った。醒めない悪夢、そこは現実。
江戸川乱歩の「鏡地獄」はこんな感じだったのだろうか。
”われわれの世界ではありません。もっと別の、おそらく狂人の国に違いないのです。”
Panoracosmos / HARUMI YUKUTAKE / JAPAN
これはもう、それはそれは深いため息が出るほど美しかった。パラレルワールドへ誘う鏡。それぞれの鏡が反射し合うことで消滅してしまう、前後左右という定義。
この鏡は逆説的な装置として存在しているそう。すなわち、固有の概念を持たないことによって他のすべての概念を保持しうるということ。それ自体がどこにも存在しないことによって、どこへでも広がってゆくことができるということ。ミシェル・フーコー。
その他まとめて
これざわざわする系。重い音が流れ、怪しく光り輝く。
このインスタレーションだけでも相当好みだったけれど、実際はパフォーマンスも行っていたようで見たかった・・・。Behind the Light。壁一面の鏡が、暗転することで浮かび上がるその裏側。鏡の状態から見たら結構怖い。
これは全てお香でできていて、現実じゃないみたいな浮遊感ある。すごくいい匂いだし、巨大なのに繊細な展示でぼーっと佇んでしまった。
これはインスタ映えするやつwインスタ見たら、女の子が中心で素敵なポーズをしている写真がたくさんアップされてた。確かにここははっとするほど美しかった。でもこれ植物じゃないんだぜ・・・!
これ。これゴミというタイトルの展示。でもゴミじゃないんだなー!興味深い。タイに住んでる日本人アーティストの作品。
今回一番不可思議だったやつ。たまたまこの作品を一番最後に見たんだけど、全部このおじさんの写真で
誰?っていう・・・w
ほっこりした気分で帰ったw
所感そしてテーマについて
今回のテーマ「An Atlas of Mirrors(鏡の地図)」は、外の世界を知る道具としての地図と内面を映す道具としての鏡を用いて、アジア諸国の歴史や現状をアーティストの目線から紐解くというもの。だが、個人という観点からすると、自分以外を指し示してくれるものとしての地図(というメタファー)、そして自己を認識させてくれる鏡(というメタファー)という見方をすることができる。現に、あなたはアイデンティティをどう定義づけるのか、という思索を促す展示が随所に散りばめられており、興味深かった。
個人的にフィリピンのアーティストの作品がすごく良かった。心がざわっとする作品をチェックするとフィリピン人ということがすごく多かった。アートシーンが盛り上がっているのか、フィリピンという国の複雑な背景がそうさせるのか。シンガポールのアーティストは、王道優等生!って感じだった。日本のアーティストは派手な華やかさに欠ける感じ(褒めてる)。育ってきた環境はダイレクトに感性、ひいては人間性に影響を与えるのだなあとしみじみ感じる。
こんなに素晴らしい展示であればもっと早くから行って何度も見たかったけれど、仕方ない。2016年中は気持ちが沈んでいたため、作品を見てもここまで心が震えることはなかったであろう。戦争系のモチーフに心が引っ張られてずーん、と落ちてしまったかもしれない。アートを本当に楽しむには、心にある程度余裕がないとだめなのかもしれない。
ところで今回わたしは一人で観に行ったのだが、アート(特に現代美術)は誰かと一緒に行って、めいめいが勝手に解釈し、やいのやいの言いつつわいわい楽しく見るのが醍醐味かなと思っている。静かで激しい興奮を一人で消化してしまうのはなんだか少し寂しいと思うのが、どうだろうか。
喜びを他の誰かとわかりあう!
それだけがこの世の中を熱くする!
世の中の全てはオザケンの言うとおりだとしみじみと感じ入る夜。