フィリピン大統領選挙ースラム街の住民は投票に行くのか?
2016年5月9日、月曜日。フィリピンでは6年に1度の国民投票による大統領選挙が行われていました。
フィリピンの投票率はなんと70%を超えます。その数字を裏付けるかのように、街中が選挙の熱で沸いていました。至る所に貼られている選挙のポスター。至る所で目にする、演説会のチラシ。暴走族かと思うほど大行列で行動する派手な選挙カー。「投票しに行こうぜ〜!」とハイテンションで語りかけるラジオ。もうとにかく右を見ても左を見ても選挙一色でした。
その頃私はセブ市のロレガという、セブで最も危険と言われるスラム街に通っていました。
スラム街の住人は選挙に関心があるのか
スラム街には働いていない人たちがたくさんいます。灼熱の太陽から逃れるように、日陰の中で大人も子供も椅子を並べておしゃべりに興じていました。
彼らの話題の中心は選挙でした。
選挙のポスターはスラム街の至る所に貼ってあります。選挙のTシャツを着ている子供や、支持者のブレスレットもまるでファッションアイテムのように身につけられていました。フィリピンでは自分が誰を支持しているのか公言することが一般的だそうです。
仲良くなった19歳の男の子。
彼はしきりに選挙について教えてくれました。
今僕はこの人に投票しようと思っているんだ!なぜならこんな政策がいいと思うからだよ。ひとみは誰がいいと思う?
スラム街を散策中、ポスターを目にすると必ず政治の話になりました。時には友人と議論をすることも。しかし、喧嘩をしているわけではなく、冷静に互いの候補者の分析をしあうといった建設的な議論が交わされている様子。
日本で19歳の男の子から支持政党について聞かれたことは今までありません。
そしてわたしも、人に聞いたことはありません。
16歳の女の子は、選挙権がないから投票できないことが悔しい。意見を主張するには私は若すぎるの。と悔しそうに唇を噛みました。
選挙権がないことを悔しがる人を見たのは初めてでした。
16歳のわたしは、選挙権がないことについて思いを巡らせたことがあったのだろうか。
最悪と呼ばれるスラム街の住人が考える「危険」
ロレガがセブで最悪と呼ばれる理由は凶悪なギャンググループの存在です。
2年前大規模な火災があったことで悪は一掃されましたが、それでも6つはグループが残っています。
ギャング同士の抗争も頻繁にあり、時には命を落とす人も。
あるお母さんは、晩ご飯を作っていたら外で銃撃戦が始まって怖かったからトイレに隠れたわ!と笑い、またあるお母さんは朝玄関のドアが開かなくて、壊れたのかしら?と思ったら外に死体があったと話してくれました。
ギャングがいるということは死が近くにあるということ。
銃、ドラッグ、犯罪が日常に潜んでいるということ。
そしてもちろん、誰もそれを望んでいませんでした。
スラムの人たちは親切で、女の子ひとりのわたしにアドバイスをたくさんくれました。
・夜は絶対にひとりで歩いてはいけない
・ジプニー(乗り合いバスのようなもの)に乗ってはいけない
・トライシクル(三輪タクシーのようなもの)に乗ってはいけない
・バッグを片時も体から離してはいけない
・財布を出してはいけない
・携帯をポケットに入れてはいけない
・ミンダナオ島は危ない
・ボホール島も危ない
言いたくはないけれど、フィリピンは女の子がひとりで旅行するところじゃないよ、と。
ロレガの住民は、フィリピンの治安の悪さが現状の暮らしをしなければならない理由のひとつであると言っていました。治安が悪いと観光産業も栄えないし、海外の企業も仕事ができないし、国際的な信用が落ちてしまう、と。そして、汚職はそれを助長してしまう、とも。
それはとても哀しいことなんだよ、と男の子は寂しい目をしました。
5月9日。
「投票行ってきたよ!」というFacebookのメッセージが眩しく目に映りました。
話した人が全員ドゥテルテ氏を支持していたわけではなかったので、治安の悪さと汚職が悪であるということはフィリピン国民の共通認識なのかもしれません。まさかスラム街の住民までもそう感じているなんて。
外国人が感じる以上に、フィリピン国民が自国の治安と汚職について辟易しているのかもしれません。
過激な発言を繰り返すドゥテルテ大統領。
口だけではなく、実際マニラのニノイ・アキノ国際空港では取り締まりが非常に厳しくなっているようで、指定された喫煙エリア以外での喫煙は罰金を取られるようになったそうです。(注意書きは以前と変わらないけど取り締まりが超強化されているらしい)
一度メスを入れることは、フィリピンの発展にとって素晴らしいことであると思います。願わくばフィリピン国民全てが、スラムの住民も全てが、安全と幸せを享受できる世の中になりますように。そしてそれができる変革のタイミングが来ているんだなあ、と明るい未来に想いを馳せました。